高速道路の中、僕の車に異変が起きた。
そもそも4人乗りの車に大人が5人も乗っているのだからそれは仕方がない。わけのわからない音がエンジンから鳴り響き、車内は異様な暑さ。
僕はこう思った。
「やばい。これは本気で死ぬかもしれない」
と当時に
「まぁいいや。なんとかなんべ」
と軽く考えた。
高速道路を時速20キロで走行するという前代未聞な事をやってのけた僕らは数時間かけて我が家についた。
勝又ファミリーと対面する、「僕たちの日々」メンツ。
標的はやっぱり荒井秀之と今井やすのり氏。さすがは家族。わかっている。
しかも、勝又家名物である父親(喧嘩最強)は酒にのまれて酔っぱらってしまい、異様に絡む。明日が息子の晴れ舞台だというのに、なんともアウトローな男。我が父。泥酔。ベロンベロン。
みんなでリビングにて雑魚寝。まるで修学旅行の夜。花粉症の荒井秀之の命の源であるティッシュが雑巾のように丸められて放置されていたり、今井やすのり氏が我が最愛の妹に「アンガールズに似ていますね」と言われ放心状態に陥ったり、大谷君の股間が夢と希望でいっぱいに膨らんだり、蔵内君の顔面が青白くなるなど、てんやわんやの夜が過ぎる。途中、就寝中の荒井秀之の顔面を本気のパンチが飛ぶという予想だにしない事態もあったが、皆ゆっくり仲良く眠る。
朝8時起床。
空は晴天。満天の青空が広がる。夢に見た日はこんな洒落た景色まで用意してくれたんだ。
会場に着き、カエデ役を演じた滝野裕美(タッキー)と合流。
南足柄市民文化会館。
今日は異様にでかく感じるよ。ちょっとびびっちまったよ。
直前になって、上映の順番が変わる。「ハチ公物語」の前に上映されるはずだった「僕たちの日々」は、「ハチ公物語」の後に上映されることになる。トリだ。小田原映画祭でも「七夕哀歌」はトリだった。さすが酉年。
しばらくして、受付スタッフをやってくれるリサコちゃんが到着。小田原映画祭で出会って仲良くなった女の子。高校卒業仕立てのピチピチキューティーガール。大谷ロックの目がキラリ。
そして、ドキュメントを撮影してくれる磯辺監督も到着。今日という大切な一日を記録してして頂く。
出番まで時間がかなりあるので、僕らは楽屋でテンションを高める。
後藤真希が使ったかもしれない楽屋で僕が舞い上がっていると、すかさず今井やすのり氏が喝を入れる。「緊張感を持て。」これぞ名言。
大谷俊介も今井康裕も蔵内彰夫も荒井秀之も滝野裕美も、それぞれがそれぞれのやり方で緊張をほぐす。僕も最高にくだらない事を話しながら、最高のステージに立つ瞬間を待つ。
午後4時半。
出番がやってくる。
舞台下手へと移動する。死にそうなくらい胸がドキドキするよ。生まれ育った街よ。僕をこんな素敵なかたちで歓迎してくれてありがとう。愛してるよ。
名前が呼ばれる。一歩一歩大切に歩く。夢見た瞬間を深呼吸して、全部を飲み込んで。
3月19日。忘れないよ。
舞台挨拶は案の定テンパって言いたいことの半分も言えなかった。
頭の中は本当に真っ白になった。
でっかいスクリーンで眺めた「僕たちの日々」。
今までにないくらいにみんなはかっこよく生きていたよ。
その姿がすんごく嬉しかったよ。
仕草や言葉がキラキラ眩しかったよ。
ありがとう。大谷俊介、今井康裕、蔵内彰夫、荒井秀之、滝野裕美。
きっと僕は何かの節目の度にこの日の事と、君たちと過ごしたてんやわんやな日々を思い出すだろう。
夏が過ぎ去った9月。偶然ともいえるタイミングで出会った僕らは、映画というフィルターを通して、必然とも言える思い出を作った。
3月19日の初恋は蜂蜜によって綺麗なピンクの花びらを咲かせた。ユラリユラリと舞い落ちる欠片を僕は汗でびっちょりの手のひらで握りしめた。
年輩の方々は、予想どおり「僕にはわからない世界だったよ」と言った(笑)
おばあちゃんはしわしわの笑顔で「あんた、舞台挨拶くらいしっかり話さないよ」と笑った。
見にきてくれた仲間たちは「胸が痛かったよ」とかっこつけていた。
大人になりきれない僕らが描いた「僕たちの日々」というスケッチ。
夢に見た場所で、それが上映できただけで、もうおしまいさ。僕の中で何かが一つ完結したんだ。
新しい目標はすぐに見つかるさ。でも今日のことはちょっとやそっとのことじゃ忘れない。
シネマカルチェあしがらの皆様に心から感謝します。
その後、はるばる東京から見にきてくれた国語ピアノの芝西さんと「Honolulu」のミミズ監督と皆とで飯を食らう。
そして温泉へGO!!!
全裸で僕らは夜を祝う。星を眺めながら入る温泉は格別だった。
月が輝く夜に、僕は、南足柄に生まれて良かったと思った。
静かに泡立つあったかい温度に包まれて、僕はこの街をいつまでも誇りたいと思った。
そして、これからも映画を撮っていこうと思った。
田んぼやラブレターや恋や自転車や片思いや思春期や星や口づけの映画を撮っていこうと思った。
プラネタリウムの空の下、ポカポカな心でそう思った。
今まで生きてきて一番素敵な日だった。