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うみが鳴らす口笛は高音が高く出て、素敵だった。

うみの金色の髪をかすめる風は七色で、夏の音がした。




うみの黄土色の足が砂浜に飲み込まれる度に

この足跡の儚さを知った。



うみの声はしゃがれて、でも高くて、とても色っぽかった。

うみのタバコの吸い方は面白い。

虫のような声を出すからだ。



うみは、夕日に染まる、海面を「美しい」と言った。

小さくて華奢な、うみのその背中に僕は、この夏のすべてを注ぎ込んだ





うみのかけるレコードはセンスがあった。

sizzla、Jimmy Cliff、そしてBuju Banton。


この海の家は、うみの家であって、うみの夏でもあった。

変拍子のリズムに体を任せて、耳をすませば
飲み込まれる波音。



未成年のくせにテキーラをショットで平らげて
ライムを絞って傷だらけの唇に預ける。

真っ赤に染まったマニキュアは
夏の太陽に浴びて
すっかり色あせた。


真っ黒な僕は、ただ、ひたすら、その一連の作業を眺めていただけだ。



月がまるくでしゃばった夜に
いつものリズムが流れて
打ち寄せる波に
足下をポチャンとつけた

ぎゅっとするタイミングも
髪を撫でるタイミングも
目と目見つめあうその距離のとりかたも

全部が魅力的で。


うみの耳元に揺れる
ミドリ、キイロ、アカ。

うみが唄うのは
いつも、ミドリ、キイロ、アカ。の歌。





9月になって
海の家はうみの家じゃなくなって
うみの夏はキレイに畳まれた。

積み重ねられたレコードはバンのトランクへ。
売れ残ったテキーラは、近くの酒屋へ。
うみはバンの助手席へ。



国道を斜めに渡って帰って行った。




国道を走っていて
藤沢辺りで潮の香りにぶつかると
いつもあの夏を思い出す。


レコードの針が折れて
トゲトゲになった7インチのドーナツ盤
フリスビーにして遊んだ夕暮れ


痛んだ髪があの日、どうしてあんなにキレイに見れたのだろう。


うみは立派なママになった。




ミドリ、キイロ、アカ。のピアスをつけて
小さな子供とBuju Bantonを唄ううみは

もう立派な大人だ。




この海で遊んだ僕らは
自分の気持ちと幾年の歳月を
大幅でまたいで

逆流した波で見えないふりをした。



セーラムライトを小指で飛ばして
ねみー、だりーと悪態ついて
砂で死んだように寝転がったうみは

もういない。







渋滞かき分けてついた海には
懐かしい匂いがした。



耳をすませば、口笛が聞こえたりもしつつ。




瞼閉じれば、海があったりもしつつ。







たまに針が飛ぶ、あの音楽を聞きながら。










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