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ある夏の暑い日。
彼女は颯爽と現れた。


語呂の悪い言葉をよく使い、
バランスが崩れた音程で鼻歌を歌い、
夏を描いたような半袖で現れた。

笑い上戸の尖った顎と、
毎朝必死のアイラインで大きくした瞳と、
くるんとかわいく上向いた睫毛と、
抱きしめたら折れてしまいそうな華奢な体で
陽炎の中を歩いて来た。


僕は冗談ばかり言っていた。
どんなに真面目なシチュエーションでも、
どんなにロマンチックなシーンでも、
どんなに危機的な場面でも、
僕は冗談を言う事しか出来なかった。

手を繋いだ瞬間に流れたのは何?
電流のようなびりびりしたもの。
瞳を閉じてと、言った瞬間に、
かわいく上向いた睫毛は、潮風に揺れて大人しくなった。


透明なショーケースに入れたまま、持ち歩いていたかった。
安っぽい低画素のフレームに収まるくらいなら、
このまま世界を終わらせて、その瞬間を切り取っていたかった。

うんとも、すんとも言わなくなった向こう側で
さんざん話した星の数を指折り数えた。
門限ギリギリの危険なデキレースに敗れて、
永遠の夜を泥棒する覚悟くらい出来ていた。


夏が終わり、そろそろ半袖だけじゃ寒いなと、天気予報が告げた頃。
ブレザーを羽織った彼女は、ちょこんとおじぎをして
あの日と同じように颯爽と、去って行った。


なーんてことない日常の切れ端の落書きのような日々。
書いては消して、書いては消して、やがて紙ヒコーキにされてしまいそうな日々。
僕の答えなんてよりも、期末テストのでたらめな答案の方が比重を占める日々。

未来なんて結局、光に満ちていて、
彼女はそれを信じて疑わずに、
24.5cmの足で歩いて行く。

黒い髪に色が入って、
ドキッとする仕草や表情なんてのも勉強して
きちんとたくさん傷ついて、大人になっていく。

これから先どんな困難や危機が襲っても
大事な大事な化粧ポーチと携帯電話だけ持っていれば
どんな強敵にも怖くないその姿勢で、
これからも生きて行く。



まるで事件のような日々だった。
夢のような日々だった。
眠りについて、目が覚めて、隣に彼女がいたという日々が、
とてもとても、疑わしいくらいに目映く光って鳴り止まない。

夏祭りも、花火大会も、港町の風景も
単調なはずの日々を、全部をカラフルに塗りつぶしてくれてありがとう。
おかげで僕は毎日わくわくどきどき出来たんだ。



また、夏が来る。
制服を脱いだ彼女は、どんな女になり、どんな化粧で、どんな男と、
夏を過ごすのだろうか。


楽しくて、笑いが絶えなくて、傷つかない。
そんな清い夏だったら、いい。


でも、忘れないで。
忘れないでくれたら、いい。